情報誌 三遊亭白鳥・桃月庵白酒 スペシャルインタビュー
情報誌ロゼvol.118に誌面の都合で掲載しきれなかった三遊亭白鳥師匠、桃月庵白酒師匠の
スペシャル・インタビューを余すところなくフルバーションでお届けします!
―2022年2月「ふじ寄席 三遊亭白鳥・桃月庵白酒 二人会」に先立ち、両師匠にお話を伺いました。
三遊亭白鳥 インタビュー
■白鳥師匠と創作落語の出会いについて教えてください
普通の落語やると思ってるでしょ?僕はまあまあ飛んだ創作落語やってます。落語との出会いは偶然。小説家になろうと考えていた時に、古本屋で志ん生師匠の「びんぼう自慢」という本を立ち読みして落語家を知って。でも面倒くさそうな世界だなと思ってたら、テレビで円丈師匠が創作落語をやっていて、こういう落語もあるんだと知った。そこからいろんな偶然が重なって円丈師匠に弟子入りすることになりました。落語に特別思い入れもなく、なんの才能があるかもわからず入ったんです。
―本当は小説を書きたかったのですか?
大学では文芸学科、サークルは児童文学研究会に入っていて、僕の書いたゼミ雑誌が結構評判になったりもしたんですよ。でも落語家になってから小説家にはなれるけど、逆はなれないなと思って。
■師匠のお着物はツートンカラーやジャージ柄など、特徴的ですね
これにはメリット・デメリットがあって。派手な着物で高座にあがると、着物は面白いけど普通の古典やってて「なんだよ出オチじゃないか」と言われちゃうんです。元々うちの師匠が着物にワッペンを貼っていたんですが、所属する落語協会は固い団体なんでそれすらワッとなった。で、僕のワッペンはダメというのでじゃあと白鳥の紋を付けたり。結局、派手な着物は目立つけれどもつまらなかったら着物だけだと言われちゃう。だからその着物に見合った芸、それ以上のことをやらないと印象に残らない。難しいですよ。でも僕は最初から座布団使ったりとか、邪道なことをやったりとか、寄席出入り止めになったりとかして、もう着物もなんでもいいやとなって、今に至るという。
■創作のネタはどのように考えるのでしょうか
よく聞かれますけど、これは「才能」です。古典だって昔は誰かが作った創作なんですよ。だけどこれがみんな作れない。僕も前座時代から創り続けてきて、寄席でウケるようになるまで長い時間がかかった。どこに才能が隠れているかはわからないもんです。「あんな奴になるな」と言われていたけれども、いつの間にか寄席でトリをとるようになるとは僕も思わなかった。だからそれは「才能」なんだと(笑)だから、どうやって作るんですかっていう質問には「山手通りを毎日歩いて作ってます」と言っています。
昨日(池袋演芸場2021年10月上席)、25年ぶりに『バリバリ女子高生』っていうネタをやってきたんですけど、持ち時間の15分じゃ足りなかったから「じゃ、続きは明日ね」ってこういうことができるんです。普通のおばちゃん、普通のおじちゃんたちを新作でひっくり返して笑わせるようになるっていうのは大変なこと。今二つ目の子たちが一生懸命チャレンジしている古典を改編するのは一から十の作業。この、落語を一から作り直すことができる人が、今売れている人です。ただ古典をやってるだけじゃだめなんです。それを演出して、自分なりのキャラクターとかをできる人が売れている。それでも、ゼロからはつくれない。大谷選手が160km投げて皆もやればいいじゃんといって、できないのと一緒。だから喬太郎、彦いち、昇太兄さんたちは才能と努力の積み重ね。でも今、一生懸命下の子たち、(古今亭)駒治くんとか、女流だと粋歌ちゃん(現:弁財亭和泉)とかがいる。たから「新作やっても寄席でトリとれるんだ」「家建てられるんだ」とか、夢見させなきゃって(笑)地下でやってたヤツがテレビにでなくても金持ちになれるっていうのを見せなきゃいけない。そうやって粋歌とか女性がやっとやっと出てきた。それは創作じゃないとわかんないですよ。
■女性落語家と師匠の創る落語についてお伺いできますか
これまで女流が増えてもなぜ売れなかったか、それは古典をそのままやってたからですよ。女の子が「おい、ハチ公」って言ったってウケるわけないじゃないですか。でも彼女たちは落語が好きでこの世界に入ってくるから師匠が好き、落語家になりたいで終わっちゃう。今でこそ柳亭こみちが、女の子を主役に立てて女性目線の落語をやっていますけど、最初は「小三治の弟子ですから古典は変えられません」とずっと言っていたんです。けれど『目黒のさんま』の視点を変えて、殿様をお姫様にした『姫と鴨』という噺を俺が作った。それからこみちも『天狗裁き』を女性目線の『女神裁き』とかに変え始めたら、最近やたらトリを取るようになっちゃって。あいつ、僕がずっと教えてきたのに(笑)彼女が二つ目の頃、古典をやっていてもまったくウケない。なので俺の『ナースコール』という女性が出てくる噺があるからやってみなって言ったんです。でそれがウケた。でも古典をやるとピタッと笑いが止まるから怖いって言うんです。だったら自分で創作を書いてやれよ、と。あと粋歌の妹弟子の美るくも『棒鱈(ぼうだら)』というネタで田舎者を演じるんだけど、そりゃお客さんは「なんだこれ?」ってなりますよ。女性が薩摩の侍と江戸っ子を演じるんだから。そこで、彼女の出身地を舞台にした『千葉棒鱈』ってのを俺が書いた。やっと今、こみちと粋歌が出てきた。そしてそれを今、更に下の子たちが「やっていいんだ」というのがわかってきて。女性の落語家もいっぱいいるんです。俺たちの上で関西に(桂)あやめ姉ちゃんっていたんです。でも一人きりだったから誰も付いてこれないし、凄さもわからない。競い合う相手もいない。東には(三遊亭)歌る多姉さん、(古今亭)菊千代姉さんもいてお二人も沢山苦労されてますよ。でもそれを経て今の彼女たちがいられるんです。だから姉さんたちがちょっとばかりいじわるでもちゃんと頭下げろって俺言うんです(笑)先人たちの苦労の上に成り立ってるんだぞって。
―今、先人たちが作った土台の上で、女流が0から一を作る時代になった?
そう。それで今は、年取って子どもがいても、寄席に出れる。女性がトリをとれるようになったんです。寄席で笑いを取って、それで頭角を出してくる。その他大勢の落語家の一人だったところから抜きんでてくる。テレビに出てない芸人がどうやって売れていくか、それが寄席なんです。白酒もそうです。あいつも古典に現代のギャグとか自分なりの演出とかをつけて。最初は雲助師匠も「あいつは小手先の芸なんてやらない方がいいんだ」って言っていたんです。でも白酒は自分の信じた道をずっと貫いて、間隔と毒舌と自分の演出手腕でちょっとずらしてく。だって普通の古典の人だと、俺と二人会できないでしょ?白酒だって俺の噺をいじったりするし、一から十を作れる人は売れる。でも教えてもらった通りただ真似てるだけじゃダメなんです。今売れている人の芸を真似れば売れるのかと言えば、それは売れない。なぜかってそれは、最初にやった人じゃないから。一之輔も『堀の内』にラップ入れたり。あれはかなり度胸がいりますよ。喬太郎兄さんも、さん喬師匠の一番弟子が新作なんかやりやがってって言われてて。でも、それを下は知らないんです。白酒も抜擢真打じゃないし、俺なんか十人真打。でもそこから自分だけのオリジナルで、だんだん白酒さんて面白いねって広がっていった。寄席で評判がたつってそういうことなんだなって。こみちが女流で初めて、そうやって上がってきたっていう。だから俺の貢献度、めちゃくちゃすごいですよ。誰も知らないと思いますけど!俺がいなかったらこみちなんか売れちゃいないよ(笑)
■今回ご一緒する白酒師匠についてご紹介ください
もともと年も少し離れていて、そこまで接点もなかったんです。でもあいつも俺のことボロクソに言うし、俺も言うので、それは五分五分ということで。古典で売れているやつっていうのは古典の変え方にオリジナルがある。白酒は毒舌で、むっちり飄々として冷めた様であり、腹黒(笑)あんまり人前で本音を見せないんです、僕は知ってますけど。でもそれをお客さんが白酒の色として受け入れてくれる。僕もやりやすいですし、何度も一緒にやっているので阿吽の呼吸です。
■富士公演にむけてメッセージをお願いします
皆さんの聞いたことのないような落語をやりますから、楽しみにしてください。
-ありがとうございました。
桃月庵白酒 インタビュー
■白酒師匠独自の落語について教えてださい
僕は古典を弄っている方なんですけど、一番は心地よい、寝落ちできる落語が目標です。雑音というか、気持ち悪い感じだと寝られないじゃないですか。小難しいのもだめ。軽さというか、なにも考えずにすっと寝られるぐらいの落語ができればいいなと思ってやっています。理解しづらい言葉を砕いたり、時代背景が全然あってないのも平気でやります。とにかく楽しく、負担なく。でもきっちりしたものを聞きたい方が多い時はそういう風に。臨機応変さが強みなのかなと思います。学校公演だと、面白かったら笑ってもらえるし、逆だと反応が素直。その視点を心がけたらお客様に喜んでいただけることが増えたので、裾野を広げるようにやっています。
■古典落語は季節を感じるネタも多いですが、好きな季節物のネタはありますか
名作といわれるものは夏と冬が多いですね。エネルギッシュな感じがするので夏の方が好きです。冬は趣があるんですけど、僕はどちからというと趣が出せる方ではないんで(笑)とはいえ富士公演は冬なので、趣あるように頑張っていきたいですよ。けれど、冬でもエネルギッシュにやっちゃいけないなんてことはないのでね。
■落語への取り組み方について
古典とか定番ネタとかには「旬」があるんです。ある時期よくやっていたけど、今は全然ウケないネタとか、前は誰もやらなかったけど、今はみんなやってウケるとか。そういう「旬」をなくさないように言葉を変えたり、展開を変えたりしながらやっていくことが大事かなと。今まで通り、これまで以上に、できるだけ頭に残らないような落語をしようと思ってますね。
■やはりお酒が好きなのでしょうか
名前のおかげでお土産とかよく頂くけど、家ではあまり飲まないんです。一席終わったあとにビールをグーッと飲むくらいはありますけど、皆とわいわいするのが好きなので嗜むくらい。偽りありですよね、名前に。
■師匠は鹿児島ご出身ですが、焼酎と日本酒はどちらがお好きですか?
両方好きですよ。昔は日本酒そこまでだったんです。でも蔵元のいい物を飲ませてもらったことがあったんですよ。そこの方が「ちゃんとした呑みかたをすればなんでもおいしい」と教えてもらって。それまでは一升くらい飲まないと酔っわなかったんですけど、あれはただ流し込んでただけなんだなと。ちゃんとした呑みかたをすれば2~3合でべろべろになるんです。ワインみたいに風味を味わって、こう鼻から風味を鼻からこうすーっと出しつつ、のど越しを楽しみながら、舌の両側から奥で、とすごく言われて。・・・めんどくさいんですよ(笑)一合飲むのにえらい大変。でもそうやっているうちに「なるほど、なるほど」と味もわかるようになったので。さらっとしてるとか、まとわりつくようなとか、あれがなんとなくわかるようになると、日本酒うまいなとなりましたね。で白酒ですからにごり酒なんかもよく頂いきます。
■最近のマイブームなどありますか
ツボですね。ちょっといいツボ押しを頂いたので、ちゃんとツボの本買って。ツボってホントはミリ単位なんですってね。いままで適当にやってましたけど。
-効き目のほどは?
それは気のもんでしょう。人間最終的にはメンタルですから。
■今回ご一緒する白鳥師匠についてご紹介ください
芸人からいい評判のでない、人間的にだいぶ破たんしてる人です(笑)でもゼロから一を創れる方。それを簡単にやるんです。もっと評価されていい人だと思いますよ、僕はね。でも褒めると怒るんですよ。一度高座でずっと褒めたことがあるんです。そしたら「やりづらいからやめてくれ」って本気で言われて「じゃ貶しますね、これから」って。いい方なんですけど、それを微塵も感じさせない魅力がある、そういう人です。
■富士公演にむけてメッセージをお願いします
富士市は落語をお好きな方が多いという印象。昔から地域寄席などに何度も呼んでいただいていて、またお声がかかると今までの頑張りを認めてくださったのかなという気持ちです。なのでこれまでの成果を見ていただければと思います。
―ありがとうございました
(この取材は2021年10月に行われました)
【公演情報】
『ふじ寄席 三遊亭白鳥・桃月庵白酒 二人会』
2022年2月10日(木) 18:30開演
富士市文化会館ロゼシアター 中ホール